同じ乗り物が12回目のフライト、使い捨てないと何が変わるか
宅配便のトラックが、同じ車体で12回目の配達に出発したとします。普通なら「へえ、よく持つね」で終わる話です。ところがこれが空を飛ぶ乗り物だったら、事情は一変します。
飛行機は同じ機体を何百回も飛ばすのが当たり前ですが、ロケットの世界ではそうではありませんでした。打ち上げるたびに機体を使い捨てにするのが長年の常識だったからです。1回飛んだら燃え尽きるか、海に落として終わり。だから打ち上げのたびに、丸ごと新しい機体を作り直す必要がありました。
12回目の飛行という数字の意味
日本時間2026年8月19日、アメリカ・ヴァンデンバーグ宇宙軍基地から「Falcon 9(ファルコン9)」ロケットが打ち上げられました。今回、荷物を運んだ第1段(ロケットの下側の大きな部分)は、これが12回目の飛行だったと報じられています。
12回というのは、同じ機体が12回打ち上げに使われ、そのたびに地上または洋上の船に着地して回収され、整備を経てまた飛んだ、ということです。使い捨てが前提だった時代からすると、これは「同じトラックで12往復した」に近い出来事です。
なぜ使い回すのか、答えはお金にある
ロケットの製造コストのかなりの部分は、燃料そのものではなく機体本体にかかっています。毎回新品を作れば、その分だけ打ち上げ費用は高くつきます。逆に言えば、同じ機体を12回使えれば、単純計算で1回あたりの機体コストは大きく下がります。
スペースXが第1段の着陸・再使用にこだわってきたのは、この「1回あたりのコストを下げる」ことが狙いだとされています。着陸に失敗して機体を失うリスクを抱えてでも回収を続けてきたのは、うまくいけば打ち上げの単価そのものを引き下げられるからです。
実はこの便、衛星を運んでいました
このロケットが運んでいたのは、人でも荷物でもなく「Starlink(スターリンク)」という通信衛星24機でした。Starlinkは、地上に基地局がなくてもインターネットに接続できるようにする衛星群で、山間部や海上、災害で通信が途絶えた地域向けのサービスとしても使われています。
この衛星群は、数十機単位でひんぱんに打ち上げを重ねることで少しずつ数を増やしています。1回の打ち上げコストが下がれば、それだけ頻繁に、それだけ多くの衛星を軌道に送り込めます。ロケットの再使用は、単なる技術自慢ではなく、通信サービスをどれだけ安く広げられるかに直結しているわけです。
生活への跳ね返り
スマホの通信料金がすぐに下がるわけではありません。ただ、通信衛星を打ち上げるコストが下がり続ければ、圏外エリアをカバーするサービスの値段や普及速度には、いずれ影響してくると考えられます。今回の「12回目の飛行」は、そのコスト低下がどこまで進んでいるかを測る、小さな目盛りのひとつだと言えます。
参考
- https://sorae.info/ssn/20260819-starlink-g17-50.html