35回目でも新品同然、無限に使い回される乗り物の正体
車を35回乗り倒したら、たいていどこかにガタが来る。エンジンオイルを替え、タイヤを替え、それでも「そろそろ買い替えかな」と思うのが普通だ。
洗濯機も、炊飯器も、使い切りが前提のものは何度も使えば劣化していく。ところが、地球を出て大気圏を突き抜け、時速数千キロで飛び、逆噴射で狭い甲板に着地する“乗り物”が、35回目の出動でもまだ現役だと聞いたらどう思うだろうか。
正体はスペースXのロケット
この乗り物の正体は、スペースXの「ファルコン9」ロケットの第1段(ブースター)だ。日本時間2026年9月2日、アメリカ・ヴァンデンバーグ宇宙軍基地から打ち上げられた機体で、今回の飛行がちょうど35回目だったと報じられている。
ロケットはもともと「使い捨て」が常識だった。打ち上げるたびに新品を用意し、燃え尽きるか海に落として終わり。それが当たり前だったところに、スペースXは「打ち上げたブースターを地上や船の上に着陸させ、また飛ばす」というやり方を持ち込んだ。割り箸を使い捨てにせず、洗って何十回も使い回すようなものだと考えると分かりやすい。
なぜ何度も使えるのか
カギは「着陸のさせ方」にある。打ち上げ後、切り離されたブースターはエンジンを再点火し、自分の重さと逆噴射の力を釣り合わせながらゆっくり降下する。そのまま地上の着陸地点や、海上に浮かぶ専用の船の甲板にピンポイントで降り立つ。落ちてくるのではなく、制御しながら「立ったまま止まる」イメージだ。
着地の衝撃を抑える設計と、飛行のたびに機体の状態を細かくチェックする体制があってこそ、35回という数字が成立する。使い捨てなら毎回作り直しになる部品を、点検と補修だけで使い続けられるということだ。
お金の話:打ち上げが安くなると何が起きるか
ブースターを使い回せるということは、打ち上げのたびに一からロケットを作らなくて済むということでもある。製造コストの多くを占めるのは、実はこの土台部分だ。そこが再利用できれば、1回あたりの打ち上げ費用は下がりやすくなる。
打ち上げが安くなれば、その分だけ多くの衛星を軌道に送り込める。今回の打ち上げでも、スターリンクの通信衛星が27機、まとめて軌道に投入された。すでに数千機規模で地球を取り囲んでいるスターリンクだが、こうした打ち上げが積み重なるほど、対応エリアは広がり、通信が安定しやすくなる。回線が混みやすい地域や、これまで基地局が届かなかった場所ほど、この積み重ねの恩恵を受けやすい。
定点観測:数字はまだ伸びる
35回という飛行回数は、今の時点での記録であって、上限ではない。スペースXは同じ機体をさらに飛ばし続ける方針で運用しており、この数字は今後の打ち上げのたびに更新されていく可能性が高い。
毎回「今度は何機の衛星を運んだか」「ブースターは何回目の飛行か」という2つの数字を追いかけていくと、派手なニュースの裏で静かに進んでいる「使い回しの経済」が見えてくる。今回の打ち上げも、そのひとコマだ。
参考
- https://sorae.info/ssn/20260903-starlink-g15-23.html