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山小屋で既読がつくようになった理由

圏外だったはずの稜線で

山小屋に着いてスマホを見たら、下山連絡のLINEに既読がついた。数年前まで、そこは電波なんて期待していない場所だった。登山者の間では「あの尾根を過ぎると圏外」というのが当たり前の共通認識で、非常用に紙の地図とモバイルバッテリーを持つのが常識だった。

この変化、多くの人は「アンテナが増えたのかな」「総務省が山間部の電波政策を強化したのかな」くらいに思って通り過ぎている。実際、山岳地帯への基地局整備は少しずつ進んでいるし、行政の補助事業もある。ただ、稜線や谷筋のような、基地局をどう頑張っても届かない場所で電波が入るとしたら、それは地上の話では説明がつかない。

電波塔を建てずに「圏外」を消す方法

答えは、頭の上を飛んでいる。

従来の携帯電話は、地上に立てた基地局の電波を掴んで通信していた。基地局が届かない山や海の上は、原理的に圏外になる。この構造自体を変えずに圏外を消すには、基地局を無数に増やすしかなく、コストも工期もかかる。

そこで出てきたのが、衛星そのものを「空に浮かぶ基地局」にしてしまう発想だ。低い高度をぐるぐる回る小型の衛星を大量に飛ばし、それぞれが普段スマホが使っている携帯電話の周波数帯をそのまま受信できるようにする。特別な受信機もアンテナも要らない。手元のスマホは、いつも通り電波を発しているだけで、それを地上の基地局の代わりに衛星が拾ってくれる、という仕組みだ。

山小屋で既読がついたあの瞬間、スマホは「山小屋の近くに基地局ができた」と勘違いしていたわけではない。実際には、何百キロも上空を移動する衛星と直接つながっていた可能性がある。

お金と暮らしへの影響

利用者側にとって嬉しいのは、多くの場合、既存の通信プランのままでこの恩恵を受けられる点だ。特別な機種変更や追加契約が必須というわけではなく、対応エリア・対応キャリアが順次広がっているという段階のサービスとして報じられている。ただ、現時点では通話やデータ通信のすべてが常時つながるわけではなく、メッセージの送受信や簡易な通信から対応が進んでいる、という位置づけのようだ。今後、災害時の緊急連絡手段としての活用も期待されている。

基地局を一本も増やさずに、圏外という長年の当たり前を書き換えようとしているのが、まさにこの「衛星が直接スマホと話す」という技術だ。登山者にとっての「あるある」だった圏外体験は、静かに過去のものになりつつある。

参考