新型が毎週出てくる工場、があるらしい
新型が毎週出てくる工場、があったら怖くないだろうか
自動車の新型モデルは、早くても半年から1年に1回しか出てこない。設計を変え、金型を作り直し、試作車を何度も壊して安全性を確かめる。このサイクルを何十年も繰り返してきたのが車の業界だ。
ところが今、車よりもずっと巨大で複雑な機械を、車のモデルチェンジよりも短い間隔で作り替えている工場がある。
車の世界の「速さ」の物差し
車業界で「速い」と言われる会社は、新型を1年に1回のペースで出す。それでも「よく頑張っている」と評価される部類に入る。設計変更→試作→クラッシュテスト→量産ラインの調整、というプロセスに、それだけの時間がかかるからだ。
この物差しをそのまま当てはめると、次に紹介する工場のペースは、ちょっと計算が狂う。
その物差しを超えてきた工場がある
民間のロケット会社が開発している大型宇宙船「Starship(スターシップ)」は、試験機を数か月おきに打ち上げている。しかも1回飛ばすごとに設計を変え、次の号機はまた違う仕様で飛ばす。車で言えば、毎回モデルチェンジしながら試乗会をしているようなものだ。
打ち上げの下段(ブースター)は、着陸させて再利用する実績も報じられている。これは、車で言えば「事故を起こした試作車の部品を、そのまま次の量産車に流用する」くらいの荒業に近い。普通は怖くてやらない。
中身は「わざと壊す」量産法
なぜこんなペースが出せるのか。答えは、失敗の扱い方にある。
従来の宇宙開発は「絶対に失敗しない設計」を机上で何年もかけて仕上げてから飛ばす方式だった。一方でこの工場がやっているのは逆で、「早く作って、早く飛ばして、早く壊れた場所を直す」という考え方だ。試験機が空中で爆発しても、それは「失敗」ではなく「次の号機のための情報収集」として扱われる。
車の世界では、こんなことは絶対にできない。人が乗るテスト車をわざと事故らせて情報を集める、というのは倫理的にも法律的にも許されない。しかし無人の試験機なら、この「わざと壊して学ぶ」方式が成立する。結果として、設計変更のサイクルが、車業界の数分の1の期間で回ることになる。
なぜそんなに急ぐのか
背景にあるのは、単純な経済の理屈だ。使い切りのロケットは、1回飛ばすごとに機体そのものが失われる。これは車で言えば「1回乗ったら廃車になる車」を売っているのと同じで、コストが下がりようがない。
ブースターを着陸させて再利用できれば、機体そのものは何度も使い回せる。飛行機のように「同じ機体で何往復もする」形に近づけば、1回の打ち上げにかかる費用は大きく下がるはずだ、という計算がある。量産ペースを上げること自体が、コストを下げるための実験になっている。
次の記録はいつ更新されるか
この分野では、しばらくすると「また新しい試験機が飛んだ」「またブースターの再利用に挑戦した」というニュースが流れてくる。1回1回の結果は成功したり失敗したりするが、大事なのはペースそのものが記録として更新され続けていることだ。
車の新型発表を待つのと同じ感覚で、この工場のニュースを追いかけてみると、「また世界一を更新した」の中身が、少しだけ具体的に見えてくる。